2015/03/06 (Fri) 22:22
はあっ、はあっ、はあっ
追う。
追い詰める。
哀れな獲物が角を曲がる。
馬鹿め。その先は行き止まりだ。
俺の勝ち。
追う獲物は極上の女。
あのCITY HUNTERの麗しきパートナー殿。
新宿を巣にしているくせに、袋小路に逃げ込むとは素人同然という噂どおりだな。
傷をつけぬようにしてさらわねば。商品価値が下がってしまう。
角を曲がる。その刹那。幻影を見る。
闇に浮かぶ白い肌。上気してうっすら桃色に染まる肌は絹のように、
絹以上に滑らかな手触りなのだろう。
その肌に色づく赤い唇は血よりも赤い誘いを浮かべているのだろう。
その白いかんばせにくっきりと開かれた鳶色の瞳には
毅然とした光を湛えて男の嗜虐心をそそるのだろう。
その彫刻のような姿態は清らかなままに男に汚されるのを待っているのだろう。
幻影を、見た。
だがそれは幻影だった。
絡まりついたピアノ線に足を取られ、
倒れたその頬を掠めて飛んできたのはボウガンの矢だった。
さすがにそれは避けるが、男は目を疑った。
袋小路のはずのそこに女はいなかった。
ただ、ボウガンだけがビール箱に括り付けられこちらを向いていた。
この一瞬にトラップを仕掛けたというのか?
くすくす
男ははっとして振り向いた。
二つ先の路地で獲物のはずの女が笑っていた。
素人と思っていた相手に出し抜かれたのが悔しいのか、男は歯噛みした。
そして笑んだ。
こういうじゃじゃ馬を飼いならすのも一興だ。
それに急がなくてはならない。
この女に手を出せないほどにぞっこん惚れこんでいる、
裏世界ナンバー1の男に気づかれては厄介だ。
男は駆け出した。少しの焦りを顔に浮かべて。
女はくるりと背を向けて路地に駆け込んだ。
男も今度は用心してそれに続いた。
だが女の姿は見えない。
ただ軽やかな足音だけが暗闇にこだまする。
足音を追う。
はあっ、はあっ、はあっ
追う。
追い詰める。
ふと気づく。
後ろから足音が聞こえる!
気づいた男が物陰に身を隠し振り向いた瞬間だった。
「獲物はお前のほうだよ。」
真後ろから声がした。
狩人気取りの男は、自分のほうが哀れな獲物だったことに気づいた。
視線の先、最後に見えたのは。
闇に浮かぶ、獲物だったはずの女の微笑みだった。
それはいらつく程に無垢な微笑みだった。
男が次に見たものは、留置所の天井だった。
(2003.3.16)
(2004.10.7公開)
(2004.10.7公開)
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