2015/03/06 (Fri) 22:50
酒臭い息を吐いて男が毒づく。
「なあ、なんでお前さ、こんなんなっても逃げていかないわけ?」
男の下で無残に服を引き裂かれた女は睨み上げる。
スカートの中のストッキングもすでに用を成していない。
「なんで逃げる必要があるわけ?」
先ほどまで無遠慮に内腿をまさぐっていた男の手は、今は彼女の顔の横に両方ともある。
正直言えば、初めてこういう行為をするときにはもう少し夢のあるシチュエーションを考えてなかったわけじゃない。
錯覚だったのかもしれないが、二人の想いが通じたと思えたこともなかったわけじゃないのだから。
でも男にこれが必要だというなら、女には逃げる理由はない。
まっすぐと己を見据える女の色素の薄い瞳に、男の黒い瞳は揺らいだ。
くしゃり、と顔が歪んだ。
「まるで俺がお前を籠の中に閉じ込めてるみたいじゃん。」
そんなつもりは、ない。
ない、つもり。
いつだって籠の戸は開け放しているのに。
いつだって女が逃げて行くように仕向けているつもりなのに。
だけど、女は逃げない。
よく慣れた手乗りの小鳥が、籠を開けても逃げることを知らぬかのように。
女は逃げない。絶対に逃げない。
そうして男の嗜虐をそそる。
「あたしは籠の中にいるわけじゃないよ。」
だって女は男の肩に止まってるだけの鳥だから。
男の耳元で囀ってやるだけが女の仕事。
男が闇の世界へと身を投げ出さぬように、呼び止めるのが女の仕事。
女はそっと腕を伸ばすと、男の頬にそっと触れる。
そのまま男の顔が下りていき、女の顔へと近づいた。
だが触れる寸前、男は顔をそらし、女の柔らかな胸へと頬を寄せた。
「ただ、俺が羽根をもいだだけ・・・だな。」
違う。自ら羽根をもぎすてたのは彼女自身。
だから、女の腕の中。男は溺れる。
きっと最初から男は女の掌の上だった。
それを認めたくなくて、女を突き放そうとした。
「香・・・」
名前を呼ぶ。
「・・・撩?」
名前を呼ぶ。
ただ女の羽根をもいだだけ。
自由に飛べる羽根を毟り取っただけ。
女はそれを自分で捨て去った。
男はそれを認めると、夜の闇の中、存分に女へと溺れていった。
(2004.12.4)
(2004.12.7公開)
(2004.12.7公開)
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